クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
[空港で待ってるね]

 フライト前に確認したスマホの文字に、心が躍った。到着時間を映茉に教えた直後に帰ってきたメッセージだ。

『何その顔。分かった、奥さんからのメッセージ見てるのね』

 羽田行の飛行機の中、隣に座るエミリアが俺のスマホを覗き込み、それから俺の顔を見てからかうように嫌そうな顔をした。

『ああ』

 どんな顔をしていたのかは分からないが、表情筋が意図せずとも勝手に動くのを感じていた。

『いいわねえ、愛だわ!』

 先ほどまでの嫌そうな顔が、突然ぱあっと明るくなる。エミリアの豊か過ぎる感情表現に付き合うのは疲れるが、今回ばかりは流せない。

『愛?』

 嫌そうに言えば、エミリアはキョトンとする。

『まさか祐駕、奥さんに言ってないの?』
『何をだ?』
『愛してるって』

 当然のように言われ、こちらがキョトンとしてしまった。

『言っていないのね』

 エミリアは大げさすぎるため息を零した。

『ダメよ、言わないと』
『そういうものか?』
『そういうものよ! 大体ねえ、私の好きなアニメの主人公も、そうやって――』

 エミリアの話が大好きなアニメに逸れて、俺はそれを聞き流す体制に切り替えた。

 そうか、愛か。

 伝えたことは愚か、考えたこともなかった。けれど言われてみれば、心の中にいつでもいる映茉を、確かに愛しいと思っていると気付く。
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