クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
 きっと俺の帰国日程を一日間違えているんだとか、体調を崩しているのかもしれないとか、そう自分に思い込ませながら、朝明台駅行の電車に乗り込んだ。

 まだ住み始めたばかりの部屋。きっと一人では心細いだろう。抱きしめてやりたい。

 そう思い、はやる気持ちで朝明台駅へ向かった。
 改札を降り、自宅のある方向へ歩みを向ける。

「俺は映茉が好きだ!」

 聞こえてきた声に、顔をしかめた。この声は、おそらく――

 声の方へ走り、大きなキャリーケースを持ち上げ階段を駆け下りる。
 声の主は、思った通り志前だった。

 アイツは一体、何を思って人の妻に告白なんてしてるんだ!

 階段を下りきり、映茉の元へ急ぐ。俺は彼女の腕を引き、彼女を腕の中に奪い返した。

 何か勘違いをして、『愛されてない』と泣いていたらしい彼女の誤解を解いた。

 言葉にすれば、彼女は「ごめん」と俺に謝ってきた。だが、言葉足らずな俺の方が、断然悪い。
 『日本に帰ってから』では、既に遅かったのだ。

 不安にさせて悪い。
 この気持ちに気付くのが遅くなって、悪い。
 こんな自分が格好悪くて、自分自身に失望した。

 けれど、映茉は帰り道、俺に寄り添って歩いてくれた。
 それがたまらなく嬉しかった。
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