クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
 キィィィとブレーキ音を響かせながら、電車が入線途中で停まる。すると彼は、身軽に線路に飛び降りて、転落した急病人のいる場所へ。
 私も男の子をだっこしたまま、慌ててそちらに走った。

 彼は線路に膝をつき、落ち着いた様子で急病人に呼びかける。見た目にも高級そうなスーツが汚れることも厭わずに、冷静に動いていく彼は、見ているだけで頼もしい。

「意識不明、呼びかけ応答なし。呼吸と脈はある」
「はい!」

 彼に見上げられ、慌てて返事をした。
 しかしその時、突然男の子が「ママー!」と叫び出した。

 振り返った先にはこちらに駆けてくる女性の姿。
 私は慌ててやって来た駅長に状況説明をし、男の子を下ろしてやった。
 男の子はすぐに、女性の元へ駆けて行く。

「ありがとうございます、すみませんでした」
「いえ、お子さんの手を離さないであげてくださいね」

 しっかりと手をつなぎ、背を向け歩いていく親子を見送ると、私はもう一方の現場に走った。

 先程の男性とともに、駅長が線路内に降りている。

「咲多さん、運転士と連携とって。可能なら後進して階段開けて」
「了解しました!」

 今度は入線途中の列車に走る。その運転士が見知った顔で、思わず叫んだ。

旭飛(あさひ)!」

 志前(しぜん)旭飛。私と同期入社の友人だ。
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