クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
「私、CA(キャビンアテンダント)だったのよ。とっても好きな仕事だったの」
「え?」

 お義母さんは言いながら、その口元が少し綻んでいる。昔を懐かしむような、優しい笑顔をしていた。

「でもね、あの人と結婚すると決めて、私はCAを辞めた。あの人の、夢のために」

 お義母さんは途端に目を細める。お義父さんのことを心から想っているのだろうと、そう思えるような笑顔だった。

「外交官って、とても大変な仕事なのよ。発言ひとつで、国同士の関係が変わってしまうかもしれない。それでも、安定した国際社会のために、国同士のために、必死で仕事をしているの。それを支えるのが、外交官の家族の――妻の役割だと、私は思ってる」

 お義母さんは言いながら、じっと私の瞳を見た。

「あなたは、祐駕の妻として、そういう覚悟はあるの? 外交官の夫を支える覚悟」
「私は……」

 言葉に詰まってしまった。「ある」と今、言うのは簡単だ。けれど、私の覚悟はそこまでできてる?

 自問するように胸に手を当て黙っていると、お義母さんは「この聞き方はじゃ、意地悪だったわね」と、幾分表情を和らげた。
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