クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜

最後の仕事と夫婦の絆

 時は過ぎ、桜の咲く穏やかな陽気の今日。世界環境大臣による視察の日を迎えた。

「映茉、おはよ!」

 宿舎の前で、駅員の制服に着替えた私の肩を、後ろからやってきた旭飛が叩いた。

「わあ、かっこいい!」

 振り返り、そこに立っていた旭飛を見て思わず声が漏れた。

 彼は、特急車両を運転する運転士にのみ着用が許された、オフホワイトのジャケットと制帽を身に着けていたのだ。

 旭飛に良く似合っている。それで、私の胸はチクリと痛んだ。

 いつか追いつける、追い越せるかも、と、心のどこかで思っていた。けれど、こんな格好を見せられたら、それももう叶わない夢だと思い知らされる。

 夢を叶えて前進する旭飛は、まるでレールの上を進む特急電車のよう。
 どんどん先へと進む彼に、置いてけぼりにされた私。私には、やっぱりホームから電車を見送ることしかできなかったんだなぁ。 

 複雑な想いが、顔に出てしまったらしい。旭飛は、困ったように微笑んでいる。慌てて「ごめん」と謝ると、「いいって」と返されてしまった。
< 216 / 251 >

この作品をシェア

pagetop