クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
 何を言ったら良いか分からなくなって黙っていると、旭飛はニカッと明るい笑みを向けた。

「仕事辞めんのだって、旦那さんのためなんだろ? 熱いねー、まだ春なのに」

 旭飛の優しい軽口に、胸がじわんと温かくなる。

「ありがと。でもね、旭飛の気持ち、嬉しくないわけじゃないから。好きにはならないけど――」

 言いながら、旭飛の頰が徐々に赤くなっていることに気づいて言葉を止めた。
 そして、つい。

「あ、照れてる!」

 言えば、旭飛は「照れてねーよ」とか「くそっ」とか言い出して。最後に大きなため息をもう一度吐き出すと、急に姿勢を正して私に敬礼を切った。

「ラストラン、頼みますよ! 持月主任駅員!」

 だから私も、笑顔で敬礼を返した。

「了解です! 志前運転士!」
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