クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
 彼が黙ってしまったので、私も食事を取りながら考えた。

 持月くんの反応からして、別に私のこと好きじゃなかったってことだよね。じゃあ、なんで急に結婚なんて……。

 ちらっと彼の顔を見たけれど、その表情からは何も読み取れない。そもそも、持月くんは時折目を細めたり口元を緩めたりはするけれど、クールで表情のあまり変わらない人だ。

「なぁ」

 急に持月くんが口を開いて、思わず背筋が伸びた。

「何でしょう!」

 急に伸びた私に、持月くんはクスリと笑った。けれど、すぐに顔を元に戻す。

「俺は、結婚というのは男女が法律上の関係を結ぶものだと思っていた。だが、咲多は違うんだよな?」
「確かに婚姻届を出して、籍を入れたら結婚だよ? でも、私は家族の幸せとか、互いの愛とか、そういうものの方が大事だと思う」

 言えば、持月くんはまた黙ってしまう。だから、私は聞きたかったことをついに声に出した。

「そもそもさ。持月くんは、なんで……私と、結婚したい……の?」

 言いながら恥ずかしくなってしまう。けれど、持月くんはやっぱり淡々と食事を続けながら言葉を紡いだ。

「互いにいい歳だし、独り身だろ。再会は偶然だったが、いいタイミングだと思ったんだ」
「それだけ?」

 嘘でしょ、それって誰でもよかったってことじゃん……。

 別に何かを期待していたわけでもないのだが、落胆してしまう。肩を落としていると――

「それだけだと言うと、語弊があるな」
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