クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
 走り去る特急車両を見送っていると、春の優しい風がふんわりとホーム上を駆けていった。私はいつものように、線路上に、信号に、ホームに異常がないか指差し確認をする。

「異常なし」

 これで最後だ。

 そう思うと、感慨深くて、なかなか顔を上げられない。けれど、ホーム上の報道陣たちが安全に去って行くのを見届けなければならない。

 顔を上げると、駅長がやって来た。私の肩に、ぽんと手を置いてくれる。

「お疲れ様、持月さん」

 報道陣が改札階への階段を上っていくのを見守りながら、不意に目頭が熱くなる。

「私、この駅で働けて良かったです」

 必死に涙をこらえて言えば、駅長は優しい笑みを浮かべる。

「僕もだよ。持月さんが優秀な部下で、本当に色々と助かったよ」
「はい!」

 誰もいなくなった三番四番線ホーム。片づけの資材を改札階に運びながら、私はこの駅で働けたことを、やっぱり誇りに思った。
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