クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
 食事の手を止めじっとこちらを向き、話聞いてくれる持月くんに、ペコリと頭を下げた。

「話聞いてたら、持月くんとはそういう感じになれないと思ったから。いくらお礼だって言われても、無理。ごめんなさい」
「それは、さっき咲多が言った佐藤みたいな家族のことか? ああいうふうに、咲多もなりたいのか?」

 思わず頭を上げた。

「そう! 佐藤家は理想的だよ。あんな風に、優しくて理解ある旦那さんがいて、子宝に恵まれて、実咲、幸せそうだもん」

 ね、全然違うでしょ? そう、思ったのに。

「……分かった」

 持月くんはそう言って、私の瞳をじっと見た。

「咲多の思う幸せな家庭を築けるように、努力する」
「……は?」

 突拍子もない言葉に、思わず素の声が出た。

「待って、私はドイツと日本の距離も――」
「次の春には日本に帰国予定なんだ。それまでは遠距離になるが……咲多の言う、幸せな家族になれるよう下準備をしておく。帰国したら、一緒に暮らせばいい。それから――」

 持月くんは、一瞬だけ窓の外に目線を投げて、それからすぐにこちらに戻した。

「――佐藤みたいな家族になりたいんだよな。子供が二人か。子供の歳の差を考えると、タイミング的には……」
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