クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
「映茉! 落下か?」
「そう! こっちの階段から急病人運び上げたいんだけど、少し後進できる?」
「待ってろ」

 旭飛は持っていた無線を真剣な顔で飛ばす。非常停止ボタンのおかげで、周りに入線する車両もない。
 旭飛はこちらにグッドサインを送ると、そのまま電車を動かし始めた。電車がゆっくりと後進したのを確認し、慌ててホームを駆ける。

「向こうの階段、使えます!」

 駅長に向かって叫ぶと、駅長はさっと急病人の脇の下に手を入れる。

「君、そっち頼めるか?」

 最初に救護に降りていた男性は、「はい」と急病人の足元をしっかりと持ち上げ、二人でホームの端の階段へと運ぶ。途中で運転席から降りてきた旭飛も手伝って、どうにか急病人をホームに上げることができた。

 ちょうどその時、改札階からホームへと階段を駆け下りてくる救急隊が見えた。
 「こっちです!」と叫び、大きく手を挙げる。救急隊がこちらに向かってくるのが分かり、ほっと胸をなでおろした。

「俺、戻る」

 旭飛は背後から私の肩に手を置く。

「ありがと」

 旭飛が戻っていくと同時に、駆けつけた救急隊が、急病人を担架に乗せる。
 始めに救護に向かってくれた男性と何かを話し、そのまま救急隊は担架を運んでいった。
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