クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
「やっぱり日本の電車はいいな」

 私の後ろの窓枠に頬杖をつきながら、持月くんが流れてゆく景色を見て、不意に言った。
 窓の外には、カラッとした秋晴れの空が広がっている。

「咲多って駅員だよな。すげえと思う」
「え?」
「日本の鉄道って、ほぼ時間通りで運行するだろ? ドイツの鉄道は二本に一本は遅れる。それも相まって、ドイツ社会では車が欠かせない。ドイツはエコ大国だと言われているが、同じように自動車産業が盛んでありながら鉄道の利用が廃らない日本を見習いたいと、ドイツの環境大臣も言っていた」
「へ、へえ……」

 なんだか、さらっとすごい方のお名前が出た気がする。けれど、そう言う持月くんの表情は柔らかい。本当に、そう思ってくれてるんだなあ、と伝わってくる。

 不意に持月くんがこちらを向いた。目が合うと、その口元が優しく綻んだ。
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