クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
「一昨日の咲多の動きを見て思ったんだ。咲多みたいな人たちが、懸命に鉄道の安全と運行を守ってくれてるからだろうな」

 トクリ、と胸が甘い音を立てて騒ぎ出し、思わず目をそらせてしまった。
 たしかに、駅員として勤めることが今の私の誇りだ。けれど、こうして面と向かって褒められるとものすごく気恥しい。

「私は、夢に破れた不運な駅員だけどね」

 恥ずかしさをごまかすよう言えば、「そうなのか?」と持月くんは少しだけ目を見張る。

「うん。本当は運転士になりたかったんだよね。でも、試験に間に合わない続きで……もう、諦めたんだ」
「そうか。悪い」
「ううん、いいの! 持月くんが日本の鉄道を誇らしく思っててくれたら、私は嬉しいよ!」

 笑ったつもりだったけれど、張り付けたみたいな笑顔になってしまった。
 窓の向こうには、湘南の海が見えてくる。もうすぐ、私の地元だ。
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