クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際０日な私たちの幸せ演技婚〜

　婚姻届の証人の欄を書き終わった母はまだ持月くんと話したそうだったが、持月くんは忙しい人だからと断って実家を出た。

　駅までの道を歩きながら、私は口を開いた。

「私と持月くんが付き合ってたってお母さんに勘違いさせたままになっちゃったね、ごめん」
「いや、それは別にかまわない。それより――」

　持月くんは不意に立ち止まる。

「咲多の父親、亡くなってたんだな」

　祐駕くんは言いながら、こちらに向かって少しだけ眉をハの字にした。

「うん、去年の夏に。車掌になるための試験の前日に、突然ね。なんだか、父に乗務員にはなるなって言われてるみたいでさ。だから、今年はもう試験も受けるの辞めたんだ」