クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
「そうだったのか」

 言いながら、持月くんは空を見上げた。まるで、私の父を探しているかのように。

「持月くんは駅員の私がすごいって言ってたけど、私は別にすごくなんてないの。夢を諦めた、ダメな人間だよ」
「ダメなんかじゃないだろ」

 持月くんが、不意にこちらを振り向いた。

「咲多は駅員として、ちゃんと出世もしてるんだろ? 咲多の他人に寄り添う対応は素晴らしいと思うし、そういう人たちのおかげで日本の鉄道は成り立ってるんだと、俺は思う」
「持月くん……ありがと」

 彼の言葉に、胸がじわんと温かくなった。涙が溢れそうになって、慌てて天を仰ぐ。すると、持月くんも同じように、空に視線を戻した。

 一緒に見上げた空は、青く澄んでいる。吹いてきた十月末の風は、爽やかさに温かさをまとっている。

 なんとなく、この結婚を父にも認めてもらったような気がした。運転士になるのは、認めてもらえなかったのに。
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