クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
「甘いこと言わないの。祐駕だって分かってるでしょう? 外交の場において、妻という立場が、家族という存在がどれだけ大切か」

 持月くんの言葉に、お母さんは呆れたような視線を向ける。

「それは分かっている。けれど、今は女性も働く時代だ。俺たちのことは俺たちで決める」

 ぎゅっと手を握られる。真剣な持月くんの顔に、私は心がぎゅっと掴まれた心地がした。
 けれど、すぐにじろりとお母さんに視線を送られる。その不愉快そうな視線に、私は思わずきゅっと肩を吊り上げた。

「まあ、祐駕も考えてないわけじゃないからいいじゃないか。どれ、証人を書いて欲しいのだろう?」
「ああ、父さん、頼む」

 なんとなく居心地の悪さを感じながら、でも持月家側のサインをもらい、無事に婚姻届が埋まった。
 それを持って持月家を出ると、持月くんはこちらを振り向き、頭を下げた。

「悪かった、不快にさせたな」
「ううん。でも、ちょっとびっくりした。仕事のこととか、全然考えてなかったから。ごめん」
「いや、悪いのは俺だろ。でも、仕事は続けてもらって構わないからな」
「うん」

 持月くんはそう言ったけれど、胸の中はちょっとモヤモヤしていた。
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