クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
【1 交際0日、結婚します】

不運な私と憧れの彼

「お疲れ様です」

 午後四時前。朝明台駅の駅員室に、運転士の旭飛が入ってきた。

「映茉も終わりだろ?」
「まだ」

 デスク業務中の私は、パソコンの画面を見たまま、旭飛の質問に声だけで返事をした。

 運転士は、当日の担当電車が駅に到着した時間が退勤時間になる。つまり、もう退勤しているということだ。
 一方の私は駅員。デスク業務もあるから、あと三分は業務時間である。

「待たなくていいよ、先に帰りなよ」
「いや、せっかく寄ったから待つ」

 朝明台駅は都内にある、近くに車両基地も備えた大川電鉄の基幹駅。運転士や乗務員の宿舎もこの駅舎の隣にあり、運転士や乗務員は、着替えや準備をそこで行うのだ。

 そして、朝明台駅周辺の駅員も、その宿舎にそれぞれロッカーを持っており、出退勤はそこで行う仕組みになっている。

 同期入社で仲の良い旭飛は、運転士と駅員という立場の違いはあれど、退勤時間が近い時はこうして私を待っていてくれるのだ。
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