クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
「忙しいんだね」

 二人でダイニングに腰かける。まだ温かいクロワッサンを口に運びながら、私は口を開いた。

「そういえば、持月くんはドイツに戻るんだよね? いつ戻るの?」
「明後日。あと、昨日お前も持月になったろ、映茉」
「あ……ごめん、つい」

 名前を呼ばれた恥ずかしさと、私の名を呼ぶ彼の無表情さに対する落胆が、胸の奥でまじりあう。

「……祐駕、くん」

 複雑な気持ちで彼の名を呼んでみる。
 
「うん」

 持月くん――改め祐駕くんは、満足そうに少しだけ口角を上げた。

 その顔は、ズルい。
 なんで私は、こんなことにトキメいてしまうのだろう。
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