クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
「映茉」

 その時、不意に背後から名前を呼ばれた。

「祐駕くん!」

 振り向き、声の主の名前を呼ぶ。彼はキャリーケースを転がしながら、こちらに駆け寄ってきた。

「早いね。私、着替えもまだだよ」
「大丈夫だ、いつまでも待ってる」

 祐駕くんがニコリと笑うから、私も彼への複雑な気持ちを隠し、ニコリと笑い返す。

「どうも、映茉の旦那の持月祐駕です」

 祐駕くんは旭飛の方を向き、優しく微笑んでいる。

 あ、〝幸せな家族〟アピールね!

 彼の動きにそう思い至り、私も祐駕くんとともに旭飛に笑みを向けた。

 途端に、旭飛は不機嫌な顔をする。

「どうも」

 たった一言祐駕くんにそう言うと、「早く着替えに行くぞ」と私たちに背を向けてしまう。

「ごめんね、着替えてくるからもうちょっと待ってて!」
「ああ、急がなくていいからな」

 そう言う祐駕くんに「うん」と頷いて、私は急いで旭飛を追いかけた。 
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