クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
「最初の年だったか? 車掌選考試験行く途中で落とし物見つけて、落とし主追いかけて遅刻して試験受けられなかったの」
「そうでございますが?」

 私は唇を尖らせた。運転士になりたかった私が、運転士になれず今もなお駅員として働いているのは、度重なる不運のせいだった。

 運転士になるには、車掌を経験しなければならない。車掌になる選考試験は、駅員として数年働くと受けられるのだが、私はその試験に行くのを毎年阻まれ続けてきたのだ。

「その次の年は、おばあちゃんに話しかけられたんだっけ? いつも駅利用してるおばあちゃんの世間話、断れなくてってやつ」
「それは次の次の年。二回目は、急病人対応してたの。目の前で急にしゃがみ込んだ女性がいてさ、それで――」
「そうだったな。で、その次の年は――」
「外国人観光客に道聞かれて遅刻」
「そんで、去年があれか」
「うん、そう、あれだよ……」

 私はため息をこぼした。車掌選考試験を受けるのは、もとい、運転士になるのは、去年でもう諦めたのだ。
< 7 / 251 >

この作品をシェア

pagetop