クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
 あの日、俺は諸用を済ませ、外務本省へ向かうために朝明台駅で乗り換え電車を待っていた。

 東京の電車はドイツと違い、時間ぴったりにやってくる。ドイツでは車に乗るが、日本でもっぱら鉄道を使うのはそれか理由だ。

 考えていたのは、数日前、ドイツの環境大臣に再度言われた言葉だ。

『私の娘なんてどうだい?』

 ドイツに赴任したのは、外務省に入省して三年目の年。
 まだ二十五だった俺が、赴任して初めて仲良くなった歳の近い女性が、環境大臣の娘だったのだ。

 それから四年、同じことを言われ続けている。ここまで続くと、もう冗談なのか本気なのかわからない。

 俺もそろそろ三十歳。外交官にしては、結婚するには遅すぎる自覚もある。
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