クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
 だからって、大臣の娘と結婚なんてな。

 正直、結婚の必要性を感じてはいない。けれど、欧州のパーティーに出席する度にパートナーはいないのかと訊かれ、だったらと親心的に娘を勧めてくる環境大臣に辟易する。
 外交上の問題もあるから、無下にできないのも困る。

 ため息をこぼしていると、不意に子供の泣き声が聞こえた。振り返ると、子供に目線を合わせるようにしゃがみ込む、懐かしい顔があった。

 咲多だ。

 高校時代に三年間、同じクラスだった彼女。
 これといって接点はないが、あの高校へ入学する前から顔を知っていた、数少ない人物であるからか、俺はすぐに彼女の名を思い出すことができた。
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