クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
 ドイツへ戻るのが、惜しい。

 そう思うようになったのは、誤算だった。
 日本での研修はさっさと終わらせて、早くドイツへ戻りたい。在ドイツの任期が終わるまでにやりたい仕事が、まだいくつか残っている。

 そう思っていたのに、たった二日会えないだけで、こんなにも焦がれてしまうとは。

 男女というものは、情事を持つと心を囚われてしまうのだと、昔誰かが言っていた。
 彼女を抱くのは、尚早だったか。

 けれど、彼女の言う〝幸せな家族〟を作るのは、婚姻関係を結んだ俺の責務だ。
 彼女の憧れだという家族構成を考えたら、遅いくらいだと思う。

 ドイツへ戻る今日、仕事を午前中で終えホテルに戻り荷詰めしながら、そんなことを考えていた時、不意にスマホが震えた。

「グーテンモーゲン、ユウガ!」

 ドイツの環境大臣からの電話だった。向こうは今、まだ日が昇った位の時間。
 何事かと問うと、陽気な声が返ってきた。

『結婚したんだって!? いやぁ、驚きだよ』
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