クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
 そんな気持ちで、逸る足は早々に映茉の働く朝明台駅へと向いた。
 おかげで、約束の三十分も前に着いてしまった。
 仕事終わりの約束だから、どんなに急いだって彼女が早く来れるわけがないのに。

 スーツケースを足元に、鞄から本を取り出し時間を潰す。
 そんな時にふと聞こえてきた映茉の声に振り向けば、同じような制服の男性と楽しそうに話す彼女が目に入った。
 
 アイツは、確か――。

 記憶をたどれば、彼があの日の運転士だと思い出す。
 彼の手が映茉の肩に乗せられ、胸を嫌な感情に占拠された。

 気安くさわるな、映茉は俺の妻だ。

 慌てて駆け寄り、けれど胸の内をさらけ出すのは格好悪い。
 余裕のあるフリをして、笑みを浮かべた。

 着替えてくると言った彼女は、戻ってきたときもソイツと一緒で。仲良さげな二人にイライラして、つい彼女の腰を抱き寄せた。

 何なんだよ、コイツ。

 そう思うけれど、彼女にだって人間関係がある。笑顔を貼り付けてやり過ごし、それでも溢れる気持ちは彼女を縛り付けようとしてしまう。
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