クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
「映茉!」

 声の方を振り向けば、こちらに大きく手を振る祐駕くん。

 足の長い彼は細身のジーンズが良く似合う。その裾は黒のサイドゴアブーツの中に引き込まれ、より一層彼のスタイルを良くする。
 淡いブルーのシャツの上にグレーのニットを重ねた上品な着こなしは、スーツの時とはまた違う格好良さを醸している。

 鼻が高く堀も深い欧州人の中にいても目立つのだから、彼はすごいと思う。

「映茉、ドイツへようこそ」

 周りの視線を気にもせず、当然のようにこちらに駆けてきた彼は、私の持っていた荷物をすぐさま手に取る。あまりにもスマートすぎて、遠慮する隙もなかった。

「ありがとう」

 言えば、「どういたしまして」と肩をすくめられる。

「祐駕くんの荷物は?」
「車の中。こっちだ」

 当然のように反対の手を握られ、胸がトクンと高鳴る。先ほどまで寒いと思っていたけれど、心も身体も温かく――というか、熱くなった。
< 85 / 251 >

この作品をシェア

pagetop