クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際０日な私たちの幸せ演技婚〜

「この城の築城主の国王は、芸術を愛し、国政を放って趣味ばかりを優先したゆえ狂王とも呼ばれている。だが――」

　祐駕くんは一度口をつぐんだ。振り向いた先の祐駕くんは、一度顔を伏せまた上げる。
　その表情は、なぜかもの悲しく、儚げだ。

「――戦争に人が傷つくことを嫌い、それでも勃発する戦争に心を痛めていたとも聞く。この場所は、芸術を愛した城主の想いがたくさん詰まっていて――だから、城主の心の砦みたいなものだったのかもしれないな」
「そうなんだ……」

　このお城に足を踏み入れた時に感じた物悲しさは、そこに起因しているのかもしれない。私は、もうここにはいない、築城主を想った。

「戦争なんて、なければいいのに」

　つい、ポツリとそんな想いが零れ出た。
　するとしばらくして、私の頭にぽすっと、優しい大きな手が乗った。

「まったくだ」

　見上げた祐駕くんは、哀愁に浸るようにバイエルンの景色を眺めている。
　けれどすぐにこちらに微笑むと、頭の上の手で私の手を握り、次の階へと歩き出した。