クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
 ホテルマンに開けてもらった扉の先。
 飛び込んできたのは、このホテルの最上階特有という、屋根型に曲がった大きな窓だ。

 エメラルドグリーンのベルベットが美しいソファと共に置かれたガラス製の猫足ローテーブルの上には、ウェルカムシャンパンが冷えている。

 その向こう、一段高い場所はベッドルーム。ロイヤルブルーに輝くキングサイズのダブルベッドが鎮座していた。

 私は思わず窓辺へ向かい、窓の外を眺めた。

 日の入りの早いミュンヘンは、もう夜の空気を纏っている。
 ライトアップされた市庁舎が美しく、ネオゴシック調の窓が幻想的な濃淡を生み出す。その周りに見えるミュンヘンの街並みとクリスマスマーケットの屋台は、まるで市庁舎について歩く子供たちのよう。

「映茉、こっち」

 振り返ると、祐駕くんはシャンパングラスを掲げていた。ホテルマンもボトルを軽く上げて、私を促す。

「ごめん、つい」

 二人に笑顔を向けられ、恥ずかしい。けれど、とても素敵な部屋に、胸がいっぱいだ。

 シャンパンを注いだホテルマンが出て行ってから、私たちは「ミュンヘンの夜に」乾杯をした。
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