《番外編》愛し愛され愛を知る。
「翔、別に咎めるつもりも無いからはっきり答えて欲しいんだが、名鳥 由恵と交際してるのか?」

 回りくどい事が好きでは無い俺がそう問い掛けると、翔は少し間を置いてからこう答えた。

「……まだ、はっきりとそういう仲になった……訳では無いですが、由恵さんから、好意がある事は伝えられました」
「そうか。それでお前は何て返事をしたんだ?」
「……彼女はあくまでも護衛の対象ですし、そういう事は考えられないと答えました」
「……それは本心か?」
「……いえ、違います。ただ、恥ずかしながら俺は恋愛とは無縁の人生を歩んで来たので恋愛感情というものがよく分かりません。好意を持たれても、戸惑いしか無いんです」
「まあ、気持ちは分からないでも無い。俺も似たようなものだったからな。けど、彼女と居ると何かが変わったんだろ?」
「はい。意識するようになったというのもあるかと思うのですが、任務以外でも、傍に居たいと思うようになりました」
「なら、それが答えだな」
「……そう、ですね」
「まあ、俺としてはお前にはピッタリの相手だと思うぞ。彼女は生まれた時から組の人間だ。組長は祖父で若頭が父親だからな。名鳥とはこれからも良好な関係で有りたいと思っているから、二人が恋仲になったとしても問題は無い。まあ、勿論駄目になる事もあるだろうが、二人の仲云々で互いの組の今後に影響するわけじゃないから、その辺も気にしなくていい。二人が共に好意を持っているなら、恋愛は自由にしていいと思うぞ。名鳥の組長や若頭も俺と同じ考えだろうから」
「……ありがとうございます」

 表情からして、翔も彼女の事を好きなのだと分かっていた。

 それなのに彼女の告白に素直な返事を返せ無かったのは、やはり万が一にも駄目になった時、互いの組の関係に影響を及ぼすのではという心配からだろう。

 翔は本当に、何よりも一番に鬼龍の事を考えているのだと改めて知って嬉しくなると共に、少しだけ複雑な気持ちにもなった。
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