俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
プロローグ
「んっ……」
滑らかな質感のシーツに埋もれるように、抱きかかえられていた体が少し乱雑に下ろされた。
「止めるなら、今のうちだぞ」
艶気のある低めの声音が鼓膜を掠める。
ベッドに放るように乱暴にした割には、気遣ってくれているようだ。
真っ暗な室内に、夜の摩天楼を彩る宝石のような煌びやかな灯りが窓越しに差し込む。
その艶美な光が彼の頬にかかり、彼は射貫くように私を見下ろした。
「自信がないの?」
「あ?……フッ、じゃあ遠慮なく」
余裕と言わんばかりに薄い唇の端がキュッと持ち上がり、彼は上着を脱ぎ捨てた。
シャツ越しでも分かるほど鍛え抜かれた体躯に、思わず見惚れてしまう。
シトラスグリーンの香りを纏う彼がゆっくりと覆い被さって来た。
これでいい。
悪夢のようなあの出来事を忘れるには、あれ以上の苦痛で塗り替えたらいいだけ。
明日になれば全て忘れて、また新しい生活が始まる。
貪るように荒々しく唇が重ねられたのは最初だけ。
次第に焦らされるようなキスへと変化して、熱い舌先が口内を甘く侵してゆく。
ワンピースのファスナーが下ろされ、露になった胸元に彼の視線が落とされた。
「形は俺好み」
「……んんっ」
あなたの好みなんて聞いてないと反射的に顔を逸らそうとした、次の瞬間には。
指先は胸を揉みしだくように蠢き、耳朶を甘噛みされて、羽禾はびくんと体を跳ね上がらせた。
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