俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

 現職の総務大臣が一介の女子アナに土下座したのだ。

 そう、この田崎 正一郎の長男である雅人(まさと)(35歳)と羽禾は交際しているのだ。
それも、結婚を前提とした付き合いで、もうすぐ2年になる。

 雅人も現職の衆議院議員で、イケメン親子としても有名だ。

 3年前の衆議院議員選挙の特番で、中継リポートをしていた羽禾に雅人が一目惚れしたのがきっかけ。
約1年かけて羽禾を口説き落とし、密かに愛を育んで来た。

 現職の国会議員と人気女子アナとの熱愛となれば、メディアのかっこうの餌食となる。
だから、正一郎が用意したセキュリティーが万全のタワーマンションで、逢瀬を重ねて来たのに。

「理由を伺っても宜しいでしょうか?」

 いつかこんな日が来るんじゃないかと、心の片隅で思わなくもなかった。

 政治一家でも有名で、相当な資産家だというのも知っている。
 入社したてのアナウンサーに、伴侶が務まるとは到底思えない。

 けれど、会うたびに熱烈なアプローチを受け、父親である正一郎も認めてくれたことが何よりも誇りだった。
だから、雅人に見合う女性になろうと、ひたすら仕事に打ち込んで来た。

 それなのに…。

「羽禾さんには本当に申し訳ないのだが、……別の女性との結婚が決まってね」
「え?」
「……年が明けたら式を挙げることになったんだ」
「………っ」

 地盤を固めるために姻戚関係を結ぶこともあるのは知っているけれど。
まさか、彼に限って。

「お相手の女性はどんな方なのですか?」

 聞いたところで現実が覆るわけではないことは分かってる。
分かってるんだけど、どうしても聞かずにはいられなかった。
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