俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
瑛弦は上半身を起こした。
サイドテーブルの上に置かれたスマホを手にして、中に収められている写真を羽禾に見せる。
その写真は、色褪せた写真をスマホで取ったような歪なものばかりで、ずっと大事にしている写真だと伝わって来た。
「俺の父親、『WRC』っていう国際自動車連盟(FIA)が主催するラリー競技の選手だったんだ」
「ッ?!」
「結構海外でも有名な選手だったらしくて、成績もかなり残してる」
「……」
「だけど、結婚式を2か月後に控えていたある日、レース中に事故で亡くなって」
「えっ…」
「当時俺は母親のお腹の中にいて。……母親は未婚で俺を産んだ」
「っ…」
「最愛の人を失った母は心が壊れてしまって…。当時は記憶障害という病名だったが、現在は認知症と診断されて施設にいる」
「っっ」
「基の父親、加賀谷監督は俺の父親の親友で、俺を引き取って育ててくれた」
「……そうだったんですね」
「子供の頃は母親の気を惹きたくて夢中だったけど、どんなに結果を残しても俺じゃダメだった。母親にとったら父親が唯一無二で、血を分けた息子であっても父親の穴は埋められなかった」
「……」
「それでもこうして辞めなかったのは、父親が目指したモータースポーツの頂点を見てみたいと思ったから」
(あぁ、何て一途な人なんだろう。決して平坦な道ではないのに、命を懸けてまで目指すだなんて)
「トリプルクラウンって知ってるか?」
「何ですか?それ…」