俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

「話して下さってありがとうございます」
「フッ、改まって他人行儀だな」
「だって……」

 身内の不幸を口にするのは辛いことだと、誰よりも羽禾が一番分かってる。
しかも羽禾は今、父親の愛情を肌で感じることができるが、彼は違うかもしれない。

 彼の母親は精神的ショックが大きすぎて、心を破壊してしまうほど愛していたのだろう。
そんな人を失って彼の母親は今尚、愛しい人を求めて彷徨っているのかもしれない。


 『本気にならない男』
 彼が心を許す存在をつくらないのは、そこにあるのだろうと思えた。

 心が壊れてしまうほど愛した母親。
 そんな母親を見て育った彼もまた、心に大きな傷を抱えている。

(あぁ、本当に……私はとんでもない人を好きになってしまったのかもしれない)

 彼の心を独占したいだなんて、厚かましいにもほどがある。
だって彼の心は、父親を愛してやまない母親で埋め尽くされているのだから。

「何でお前が泣くんだよ」
「だって……っ…」

 知らず知らずのうちに涙が零れていた。
 
「今日は幾らでも甘やかしてあげますよ」
「は?」
「どーぞ、遠慮なく」
「……意味わかんね」

 羽禾はどんな風に彼に接していいのか分からなかった。
ただ言えることは、両手でぎゅっと抱きしめてあげたかった。
だから両手を広げて、彼が甘えてくれるのをじっと待つしか……。

「お前、胸が丸見えだぞ」
「っっ……いいんです!さっき散々見たじゃないですかっ」
「フッ」

 お互いに真っ裸なのだから仕方がない。
 救いなのは、レースカーテン越しの月明かりだけだということ。

「んじゃあ、遠慮なく。あと1戦したらマジで寝るからな」
「ッ?!えっ、そこはぎゅっだけにしときましょうよっ」
「無理言うな、もうおさまりきかねーよ」
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