俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
【第9戦】バンプ対策は万全で

 4月1日の月曜日。
 4日後の金曜日に日本GP初日が三重県 鈴鹿サーキットで行われる。

 オーストラリアGPを終え、約10日間の調整期間がある中、瑛弦はチームより一足先に帰国していた。

「本当に一緒に行く気か?」
「別にご挨拶したいとかではなくて、お母様がいらっしゃるところがどんな場所か、見てみたいんです」
「ったく、何もねーとこだぞ」
「瑛弦さんと一緒なら、どこでも楽しいですよ」
「あっそ」

 瑛弦がチームとは別行動で先に帰国する理由は、施設にいる母親に会いに行くためだと知り、羽禾は彼について行くことを決めた。

 彼の母親は、最愛の人との想い出の地で暮らしているという。
 そこにいると、症状が落ち着いていて穏やかな表情でいられるらしい。

 瑛弦と羽禾は、東京駅から上越新幹線で群馬へと向かった。



 群馬県渋川市にある伊香保町、温泉で有名な場所だが、日本三大うどんの水沢うどんが有名な土地でもある。
 水沢観音を参拝するための街道に沢山のうどん店が軒を連ね、毎年多くの観光客が訪れる。

 中でも大人気なのが、『くろせ』という名の老舗うむどん屋(うむどん=うどん)。
 瑛弦の両親がデートで何度も訪れ、父親がこよなく愛したうどんらしい。

 それを母親が入所している施設のスタッフが定期的に送ってくれているという。

 渋川駅に到着した瑛弦と羽禾は、レンタカーを借りて、施設へと向かった。

「残念。桜はまだちょっと早かったですね」
「……だな。毎年4月下旬から5月頃が見頃だな」
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