俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
「瑛弦さんの日本人離れした顔立ちは、お母様似なんですね」
「そうか?」
「はい。遠目でも美人さが際立ってました」
「……フッ」
水沢観音を参拝し、少し遠回りで駅へと戻る。
「今日はありがとうな」
「いえ、無理言ってすみません」
「1人だと、帰り道がちょっと憂鬱だったりするんだけど、お前がいると何だか気が紛れるな」
「……お役に立てて何よりです」
お互いに口数が多いというタイプでは無いから、どちらかが話しかけなければ自然とだんまりになってしまうが、それが思いのほか心地いい。
片道2時間ほどの道のりだが、初めての小旅行みたいで羽禾の胸は弾んでいた。
「お前、変装とかしなくて平気なの?」
「はい?」
「一応、キー局の女子アナだろ」
春休みということもあって、新幹線の中はほぼ満席状態。
「地味な顔つきですし、瑛弦さんみたいなオーラはないので」
「そうか?ま、お前がいいならいいけど」
あの人と付き合ってた時は、自分がというよりもあの人を追うパパラッチが怖かった。
今は……この人を追うパパラッチがいるかもしれない。
だけど彼は『スクープされたら名が売れる』だなんてジョークを言えるくらい動じない人だ。
一応、薄い色付きの眼鏡はしている。
それに通路側ではなく、羽禾は窓際の席に座っているから。
「なぁ」
「……はい?」
「キスしていい?」
「は?」
「何そのリップ、誘ってるとしか思えねぇんだけど」
「……あ」