俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
令子さんに貰った『攻め色』リップ。
フランスのコスメメーカーのもので日本未発売ということもあって、ちょっと冒険してみようと思ったのだけれど。
殊の外、彼に効いているらしい。
「チュッ」
「……犯すぞ」
令子さんと加賀谷さんのやり取りではないけれど、リップ音だけ響かせたキス真似をしてみた。
こんな風に堂々と外を歩けるだけで心が満たされるのに、彼は『女』としても求めてくれる。
ただ単に体だけの関係になるかと思いきや、意外にも紳士的な部分もあったりして、彼の行動全てにときめいてしまう。
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東京駅で瑛弦と別れ、羽禾は芙実と待ち合わせをして実家へと向かった。
1週間後が父親の誕生日ということもあって、3人でささやかな誕生会をする。
「パパりん、お誕生日おめでとう!娘2人からのプレゼントだよ~♪」
「わぁ、ありがとう。今年は何だろうなぁ~?」
芙実が取り寄せてくれたパジャマがラッピングされたものを手渡し、帰宅する時に買ったケーキと出前のお寿司で祝う。
「おっ、パジャマだ」
「安眠パジャマだよ♪寝心地がいいって、うちで契約してるアスリートさんが教えてくれたの」
「ほぉ~、それは期待だな」
幸せそうな顔をしている父を目にし、羽禾は意を決した。
「お父さん、あのね」
「ん?」
「好きな人ができて、少し前から付き合ってる」
「へ?……そうか。優しい人なのか?」
「……うん」
芙実には付き合うことになった時点で話をしていたが、破談になって心配をかけていた父親を安心させたかった。
「パパりん、この人だよ!年俸50億の男」
「ッ?!」
「ちょっと芙実!」
その晩、深夜まで瑛弦の話で盛り上がったのは言うまでもない。