俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う


「20**年 F1世界選手権 第4戦 日本GP 決勝のお時間がやって参りました」

 晴れ渡った大空に、5本の白煙を引くブルーインパルス。
 レース直前の観客席は大興奮の渦に包まれた。 

 発売開始後たった2週間で指定席完売(約6万席)となった鈴鹿サーキットは、連日満員御礼。
 自由席にすら座れない一般来場者が会場のあちこちに溢れている。

 フォーメーションラップ(決勝レース前に全車がコースを1周すること)が行われ、グリッド位置にマシンが着いた。

「解説は川端(かわばた) 勇悟(ゆうご)さん、実況は私、西野 透でお届け致します」

 滑らかな西野アナの挨拶で『Sky J-sports』の生放送が開始した。

「Lights out ! 鈴鹿サーキット53周決戦、今スタート!」

 シグナルが消え、全車が一斉にスタートした。



「この鈴鹿サーキットはステアリングを動かさずに済むセクションが殆どなく、ドライバーの腕が試される難攻不落のサーキットでも有名です。サーキット場は通常時計回りか反時計回りかの一方通行ですが、この鈴鹿は時計回りと反時計回りが存在する、唯一の八の字型のコースレイアウト。本当に何度見ても素晴らしいコース設計ですよね~」

 テレビ画面にコースレイアウトが表示された。



「DRS区間はメインストレートの1箇所。ターン①から②にかけて下り坂のホームストレートをスリップストリームを使い、レイトブレーキングでオーバーテイクするのが観覧席から見えるのが嬉しいですよね」

 DRS区間とは、リアウィングを利用した追い抜き装置を使用していい区間。
 スリップストリームとは、ストレートを高速で走行する場合に後方に空気の穴ができること(前車に壁になって貰い、引き寄せられるようになること)。
 
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