俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
【第10戦】攻めのダウンフォース

 7月上旬に行われたイギリスGP。
 地元開催ということもあり、大熱狂の中、ポール1位、瑛弦2位のワンツーフィニッシュで幕を閉じた。

 連日多くの取材を受ける『Blitz』のドライバー2人。
 次のハンガリーGPまで2週間ある。

 とはいえ、最低でも3日前に現地入りし、準備しなければならないからいつまでもお祝いモードでのんびりはしていられない。

 そんな中――。

「羽禾さん、お休みのところすまないね」
「とんでもないです。チームスタッフでもないのにお声かけ頂き、ありがとうございます」
「何を言ってるんだ。君はもう『Blitz』のメンバーだよ」
「あなた、そこは『息子の嫁』って言わないと」
「あぁそうだった。すまんすまん」
「……ご迷惑をお掛けして……いつも細やかなお気遣いに感謝してます」
「止め止め止めっ!会うたびに他人行儀の挨拶って、誰得なの?羽禾ちゃんにとっちゃ、拷問だから!嫁になる人にそんな気を遣ってどーすんのっ」
「ホントね~。ついつい御礼が言いたくなっちゃうのよねぇ」

 次のGP開催地はハンガリー。
 ヨーロッパ圏内ということもあり、セットアップさせたマシンをトランスポーターで輸送するため、スタッフはギリギリまでイギリスで過ごす。

 そのハンガリーGP最終日の決勝が瑛弦の誕生日ということもあって、チームでは前倒しで誕生会をする予定だ。
 
 幼い頃に瑛弦を引き取り育てて来た加賀谷夫妻にとっては、瑛弦は息子同然。
 その瑛弦がこれまでずっと恋人をつくらずにいたが、遂に恋人をつくったとあって、少し前から加賀谷家では嫁フィーバーが巻き起こっている。

 『チーム一丸』がスローガンの『Blitz』では、恋人ができたら報告するのが通例となっているからだ。
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