俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

 誕生日パーティーに必要な物を買うため、加賀谷夫妻と共に基の車でロンドンの大型ショッピングセンターに来ている。

「じゃあ、私たちは食糧品や日用品を買うから、基たちは瑛弦へのプレゼントを頼むな」
「分かってるよ」
「じゃあ、羽禾さん、また後で」
「はい」

 基は車のスペアキーを父親に渡し、羽禾とショップを廻ることに。

 毎月ピットクルーメンバーで積み立てしているお金で、メンバーの誕生日にはパーティーを行い、プレゼントが贈られる。
 これは、クルーを『家族』として大事にしている加賀谷監督の決めたルールでもある。

「羽禾ちゃんは瑛弦に何を贈るか、もう決めてあるの?」
「いえ、何にも」
「そっかぁ。……ちなみにクルーから去年は髭剃りで、一昨年はミラーフィット」
「ミラーフィット?」
「姿見みたいなやつで、たくさんのトレーニング機能が付いてて体の数値がデータ化されるやつなんだよね」
「高そうですね」
「あぁ結構したかも。積立金で足りない分は親が払うからそこは気にせず」

 にかっと白い歯を見せながら笑う基は、雑貨屋に羽禾を手招きした。

 『Blitz』が他のチームと違い、アットホームな雰囲気なのは加賀谷夫妻の人柄なのだろうと思った。
 
 瑛弦が羽禾と付き合っていると報告した際は、青天の霹靂とばかりに『こんな可愛らしいお嬢さんを毒牙にかけて…』と言われたほどだ。
 瑛弦がこれまで心を許す存在をつくらず、その場限りの関係を続けて来たことももちろん知っている。
それこそ、何度となくパパラッチにスクープされたこともあるし、相手の女性からリークされたこともある。

 それでも瑛弦を温かく見守って来たのは、大親友の忘れ形見だからだ。
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