俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う


「なぁ」
「……はい?」
「何で敬語なん?」
「……つい」
「ドバイの夜は、上から目線だったのに」
「っっ……あれは…」
「フフッ、冗談。けど、いい加減タメ口で話せよ。1つしか違わないんだから」
「……ん」

 腕の中にすっぽりとおさまる羽禾。
 元々線の細い彼女が、最近さらに細くなった気がする。

「実家に帰ったら、思いっきり父親に甘えて来い」
「へ?」

 瑛弦の言葉が意外だったのか、羽禾は視線を持ち上げた。

「当たり前のように今日も抱いたけどさ、体調が悪い時は無理すんな。ちゃんと拒否れよ」
「……拒否してもいいんですか?」
「お前、馬鹿だろ。拒否られたからって、お前のこと無視したりしないし、俺のこと、もう少し信用しろよ」
「……ん」

 今まで同じ女を二度抱いたことがない。
 その場限りの相手に、未来を重ねたことが一度もなかった。

 けれど、今は……。
 母親が父親に執着している気持ちが何となく分かる。

 今だけでなく。
 明日、来週、来月……。
 自分の隣りにこの女がいる姿が何となく想像できる気がするから。

「羽禾の誕生日いつ?」
「……6月16日」
「…………ん?……はぁ?何で言わなかったんだよっ!過ぎてんじゃん!!」
「だって、聞かれなかったから」
「お前、ホントに馬鹿だな。普通、誕生日くらい強請るもんだろっ」
「……」

 1カ月も誕生日が過ぎてることに衝撃を受けた瑛弦。
 つくづく周りにいる奴らと違うことに改めて気づかされる。

「欲しいものとか、行きたい場所とか考えとけ」
「……別にいいのに」
「よかねーよっ」
「フフッ」
「笑いごとじゃねーぞ」
「だって、もう貰ったもの」
「あ?」
「『彼女』の特別座席(シート)
「っ……その口塞ぐぞ」
 
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