俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

 仕事のため日本に帰国した羽禾は、会社に顔を出してから、収録のため渋谷のサテライトスタジオへと向かった。

 今日は大人気男性ロックバンド『Blue Moon』のトークショーを担当することになっている。
 ニューアルバムがリリースされ、ファン向けに公開生収録を行うのだ。

「皆さん、こんにちは。『ドロップハウス』のお時間です。今日は、渋谷のサテライトスタジオから生放送でお届け致します。今日のゲストは、先日ニューアルバムがリリースされた『Blue Moon』の皆さんにお越し頂きました。こんにちは~」
「こんにちは、『Blue Moon』です」

 ボーカルの(たから)のハイトーンボイスは、J-POP界に新風を巻き起こしつつある。
 甘く切ないメロディなのに突き抜けるような声音に酔いしれる女性が続出。
 ラジオのリクエストにはもはや欠かせないグループである。

 真夏の炎天下の中、サテライトスタジオの前には埋め尽くすファンがいて、メンバーはトーク中に何度もファンに水分補給を促すコメントを向けた。

「本日はお忙しい中、ありがとうございました。『Blue Moon』の皆さんでした」

 約30分の公開収録を終え、メンバーが外にいるファンにガラス越しに手を振っている。

 マイクの電源を切った羽禾は、改めてメンバーに御礼と挨拶をする。

「今日はご指名頂き、ありがとうございました」
「いや、うちらの方こそ、感謝の気持ちでいっぱいです!『Sky J-sports』のめっっっちゃファンなんで!」

 モータースポーツが大好きだという宝。
 これまでもずっと番組を観ていたらしいが、羽禾がキャスターを務めるようになって、より楽しみになったという。

 だから、今日の収録のMCに指名されたのだ。
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