俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う


「羽禾」
「……何でいるの?」

 仕事を終え、実家に帰宅したら、マンションのエントランスに1人の男性が立っていた。
 穏やかな声音は、エントランスホールによく響く。

「話がしたい」
「私は何も話すことなんてないです。帰って下さい」
「頼むっ、羽禾!一度でいいんだ。俺の話を聞いてくれないか」
「……ここだと人目があるので、別の場所に」

 スーツ姿でマスクも眼鏡もかけておらず、誰の目にも『衆議院議員 田崎 雅人』だと分かってしまう。
 交際していた2年間に、こんな風に変装もせずに外を歩くだなんて一度もしたことがなかった人なのに。

 羽禾は人目を気にして、マンション近くのカフェへと雅人を連れてゆく。

 そのカフェは、羽禾の行きつけということもあって、店長が気を利かせて奥の個室に通してくれた。

「話って、何ですか?今さらスクープされても困るだけなので、本題だけお願いします」

 交際している時は、こんな風にズバズバという性格ではなかった。
けれど別れて、瑛弦と知り合って、気づいたことがある。
 プライベートな時間こそ、気を遣わないでいられる関係がベストなのだと。

 注文した珈琲が運ばれて来た。
 羽禾は、深いため息を吐きながらそれに口をつけた。

「これを見て欲しい」

 目の前に差し出されたのは、『DNA父子鑑定結果報告書』と書かれた2枚の紙。
 1枚には【0.012%】と書かれたものと、もう1枚には【99.458%】と書かれたものだ。

 その用紙に違和感を持ち、該当者である父親の欄を確認した。
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