俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
「春先に彼女が流産したんだ」
「……知ってます」
「その時に、こっそり胎児のDNAを採取しておいた」
「ッ?!」
「羽禾も知っての通り、俺は酒が入るとダメになるタイプだから、どうしても腑に落ちなくて…」
雅人は視線を鑑定書に落とし、【99.458%】と書かれている方を指差した。
「この男は彼女とクラブで知り合い、暫く関係があった男だ」
「……」
「こういうことに権力を行使するのはどうかと思うが、どうしても納得ができなくて……」
政財界の重鎮である田崎の力を使えば、女子アナの交友関係を調べることくらい容易いことだろう。
現に、羽禾が海外を行き来している航空便を調べ上げているのだから。
「あの時、羽禾を一番に考えていれば……こんな事にはならなかった」
雅人の瞳から涙が零れ落ちた。
「本当にすまない」
「今さら、過去を蒸し返してもどうにもならないです。あなたは私を捨てて、私はあなたから離れた。これが全てです」
「離婚するために手続きしている」
「……」
「受け入れた俺にも罪があるが、これは結婚詐欺だ。……彼女に愛情はない。俺は今も羽禾を愛している。俺ともう一度、やり直して貰えないだろうか?」
「………無理です」
「何故?あんなに愛し合ったじゃないか」
「……愛?……私はずっとあなたに嫌われないように完璧に振る舞ってただけです」
「嘘だ」
「本当です。雅人さんに相応しい妻になるために、毎日必死でした。でも、今は違います。……私が極度の方向音痴なの、知ってましたか?」