俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

「へ?」
「立ち食い蕎麦の、温泉卵が乗ってるのが好物なんです」
「……」
「燦燦と降り注ぐ太陽の下で手を繋いでデートしたり、ゆっくりと沈む夕陽を眺めて大好きな人と次の日も一緒に過ごせる幸せを噛みしめたい。……そういう他愛ない時間を一緒に過ごしてくれる人の傍にいたいです」
「それって、……そういうことをしてくれる人がいるってこと?」
「……はい」

 雅人と交際していれば、常にパパラッチの標的になる。
 結婚をすれば、幾分かおさまるかもしれないが、政治家であり続ける以上、恐らく変わらぬ日常だろう。

「ちゃんと寝れてる?あまり顔色がよくないみたいだけど」
「日本と海外を行き来しているので、時差ボケと疲労は常に抜けないですよ」
「……そうだよな。君に辛い思いをさせてすまない」

 元凶を辿れば、自分が泥酔したのが原因だと思った雅人は、やるせない思いで唇を嚙みしめた。

「お父様にお気遣い頂いたみたいで、雅人さんから宜しくお伝え下さい」

 羽禾は席を立ち、荷物を手にした。

「これからのご活躍を、国民の1人として応援しています」

 これで最後。
 もう会うことはない。
 羽禾は一礼した。

「羽禾っ、何か困ったことがあったら、いつでも頼って」

 羽禾の背中にかけられた言葉は、2年という歳月を共に過ごした彼なりの償いのように思えた。

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