俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
【第11戦】突然のオレンジボール
今年のGPは過去最多の24戦。
9月上旬の第17戦アゼルバイジャンGPを終え、どのチームも疲労が見え始めている。
しかも、ドライバーズとコンストラクター共に累計ポイントに差が出始めていて、残りあと7戦あるが、ほぼ上位は確定したようなもの。
現在『Blitz』は3位で、2位の『Clark』とは僅差。
そして、昨シーズンのコンストラクターチャンピオンの『Raymond』は今年も1位を独走している。
「瑛弦、向こう着いたら16時からミーティングな」
「……おぅ」
次の開催地であるシンガポールへと向かうため、ヒースロー空港でチェックインする。
「羽禾ちゃんは日本から直に?」
「あぁ、木曜日に現地入りするって」
「相変わらず忙しいんだな」
「ロックバンドのファンミーティングがあるらしくて、そのMCを担当するって言ってた」
「へぇ~、アナウンサーって本当に色んな仕事があるんだ」
F1のマシンや機材を運ぶのは『F1カーゴ便』と呼ばれるチャーター便。
ボーイング747型の貨物機(フレイター)で輸送する。
実際は同じマシンを修正して毎回使用するのではなく、基本1戦おきに使用する。
そのため、大会を終えると2戦後の開催地へと準備を手配するのだ。
とはいえ、細かな部品やベース基地でなければ取り揃わないパーツもあるため、都度エンジニアたちはセッティングに追われている。