俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

 羽禾は診察室へと入る。

「こんにちは~」
「……こんにちは。宜しくお願いします」

 40代と思われる男性医師が電子カルテを見ながら、羽禾に挨拶した。
 看護師に促され、椅子に腰かける。

「血液検査の結果なんだけどね、ヘモグロビンとヘマトクリットの値が結構低いんだよね」
「貧血ということですか?」
「MCVといって、赤血球の大きさを示す数値も低い」
「……」
「赤血球は酸素を運ぶ重要な役割を果たすから、酸素が運ばれ難くなって眩暈が起るようになる」
「……はい」
「まぁ、それだけなら食事療法や鉄剤で対処もできるんだけど」

 『小倉(おぐら)』と書かれたネームプレートが前屈みになったことで揺れた。

「手を出して貰えるかな?」

 差し出された両手にそっと手を乗せる。

「痺れはどうかな?」
「……たまにあります」
「足先はどうかな?」
「痺れはないですけど、ふらつきみたいになることはたまにあります」

 芙実が『酔ってるみたい』と何度か口にしてるから、自分ではあまり自覚症状がないけれど、ふらつきがあるのかな?と思っていた。

「ちょっと眩しいよ?」

 弱いペンライトが眼球に当てられ、指先を見るように指示を受ける。

「目は疲れたり、ぼやけたりしない?」
「……たまに」
「視野が欠けるみたいな感じは?」
「……両端が少し重い感じに。全く見えないというわけではなくて、薄暗くなったみたいな」
「少し脚を触るよ?」
「……はい」

 小倉医師は、スラックスの裾を捲り、くるぶしの少し上を指先で何度も押す。

「今日はこの後、少し時間があるかな?」
「はい?」
「脳に少し気になる部分があって…」
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