俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
*
「羽禾ちゃんっ」
「……加賀谷さん」
ホテルへと戻る途中で基に声をかけられた。
「ごめん、聞くつもりはなかったんだけど…」
「……?」
「さっき、羽禾ちゃんと西野さんが話してるのを聞いちゃって…」
「へっ?」
「昼間、音響さんがピット裏にこれ(STVと書かれた特殊なテープ)を落としてったから届けに来たら…」
「……そうですか。それ、お預かりしますね」
基の表情から、先程の会話を全て聞かれたのだと悟った。
「彼には黙ってて貰えますか?」
「え?」
「GPに支障をきたしてしまうので、黙ってて欲しいんです」
「でも…」
「いつかはバレることだと思いますが、それは今じゃないことは確かです」
シーズンが終わるまであと6戦。
現在チームは3位だし、彼自身4位と3P差の5位だから。
少しでもレースに集中できるようにしてあげたい。
それでなくても、死と隣り合わせの競技なのだから。
「ちょっと歩きませんか?」
「……ん」
シンガポールの9月は東京よりもじめっとした暑さなのに、羽禾は鳥肌のようなぞくぞくっとした感覚に襲われた。
知られては困ることを基に知られ、心がざわついて不安に押し潰されそうなのだ。
「手術が必要なほど、病気は深刻なの?」
「……はい。できれば、1日も早く手術を受けた方がいいみたいです」
「っっ…」
「そんな顔しないで下さい」
いつもおちゃらけている基が、初めて余裕のない顔を見せた。
それを見て、改めて思い知る―――夢ではなく、現実なのだと。
「羽禾ちゃんっ」
「……加賀谷さん」
ホテルへと戻る途中で基に声をかけられた。
「ごめん、聞くつもりはなかったんだけど…」
「……?」
「さっき、羽禾ちゃんと西野さんが話してるのを聞いちゃって…」
「へっ?」
「昼間、音響さんがピット裏にこれ(STVと書かれた特殊なテープ)を落としてったから届けに来たら…」
「……そうですか。それ、お預かりしますね」
基の表情から、先程の会話を全て聞かれたのだと悟った。
「彼には黙ってて貰えますか?」
「え?」
「GPに支障をきたしてしまうので、黙ってて欲しいんです」
「でも…」
「いつかはバレることだと思いますが、それは今じゃないことは確かです」
シーズンが終わるまであと6戦。
現在チームは3位だし、彼自身4位と3P差の5位だから。
少しでもレースに集中できるようにしてあげたい。
それでなくても、死と隣り合わせの競技なのだから。
「ちょっと歩きませんか?」
「……ん」
シンガポールの9月は東京よりもじめっとした暑さなのに、羽禾は鳥肌のようなぞくぞくっとした感覚に襲われた。
知られては困ることを基に知られ、心がざわついて不安に押し潰されそうなのだ。
「手術が必要なほど、病気は深刻なの?」
「……はい。できれば、1日も早く手術を受けた方がいいみたいです」
「っっ…」
「そんな顔しないで下さい」
いつもおちゃらけている基が、初めて余裕のない顔を見せた。
それを見て、改めて思い知る―――夢ではなく、現実なのだと。