俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

 加賀谷さんが誰に対しても軽い感じに接するのは、そういう過去があったからだ。
 誰も信用できなくなってしまったのか。
 自分への戒めなのか、分からないけれど。

「そんな俺でもさ、心は普通にあって」
「……当たり前ですよ」
「あぁ、こういう子が相手だったらよかったなぁっていう子が現れたんだよね」
「……」
「それが、羽禾ちゃん。君だよ」
「………」
「できることなら……俺の手で幸せにしてやりたいけど、俺じゃダメなんだよな」
「……っ」

 真っすぐと射抜くように向けられる視線に、彼の本心なのだと分かる。
 その気持ちに応えることができず、申し訳なさが募る。

「あいつは素直じゃないし、口が足りないかもしれないけど……。ちゃんと理解のできる男だから」
「……はい」

 言いづらいかもしれないが、ちゃんと彼と話し合え……そう言いたいのだろう。

「レース中に、メカニカルトラブルでピットイン指示がでるの、何色の旗でしたっけ?」
「ん?黒地にオレンジの円が描かれた旗。通称、オレンジボールだよ」

 レース続行ができないとみなされ、強制的にピットイン指示が出されるモータースポーツのルール。
 耐久レースではよく見かけるが、F1では目にする機会は殆どない。
  
 まさに、今の私のことを言ってるみたいだ。
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