俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
【第12戦】アンダーカットがベストの選択

 11月上旬。
 ブラジル サンパウロGPが終わり、『Blitz』のクルーも羽禾もイギリスに戻った。

 F1GPシリーズの残り2戦は、中東(カタールとアブダビ)で行われるため、一旦ベース基地で整える算段。

 『Blitz』は現在3位で、2位と3p差。
 逆転のチャンスは十分にある。

 個人ランクはポールが3位、瑛弦が4位とこれまた表彰台を狙える位置につけていることもあって、チームは万全の体制でラスト2戦を迎えたい。

 そんなある日。

「どこに行くの?」
「ちょっと遠出」
「え?」

 羽禾はGPが終えるまで他の仕事を全てキャンセルし、GPシリーズに全てをかけている。

 いつ体調が悪化するか分からないし、日本と海外を頻繁に行き来すると、過労や気圧の関係で腫瘍に影響が出るかもしれないと医師から言われているからだ。

 血液循環、ホルモンバランスなど、日常生活で悪化する要因はどこにでも潜んでいる。
 医師から処方された薬を服用しながら、できるだけ心穏やかに過ごすことが一番いいらしい。

 カタールGPに向け出国するまでの間、瑛弦は羽禾をデートに誘い、2人だけの時間を過ごそうと考えていた。

 イングランドの南西部に位置するコンウォール。
 アーサー王が海に眠っていると言われる岬があり、『地の果て』と呼ばれていて、サンセットが絶景の場所でもある。

 いつだったか、『黄昏れ色に染まる水平線が好き』と呟いた羽禾。
 彼女が好きなものってだけで、見せたいと思うようになるとは。
< 139 / 180 >

この作品をシェア

pagetop