俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う

「お疲れ様でした」
「お疲れさま~」

 深夜収録でテレビ局内にいたヘアメイクさんにカバーメイクを施して貰い、羽禾は何とか3時間の生放送を乗り切った。
 重田アナと共にスタジオを後にする。

 アナウンス部へと戻る足取りがいつも以上に重い。
既に32時間寝ずにいるのだから当然だろう。
いや、睡眠時間の問題ではない。
この後アナウンス部に戻れば、顔を合わせなければならない人物がいるからだ。

「先輩、お疲れ様です」
「……おはよう」

 愛くるしい笑顔で出迎えてくれたのは、2年後輩のアナウンサー土屋 清香。
 昨夜、田崎大臣から聞かされた人物だ。

「はい、珈琲をどうぞ」
「あ、……りがとう」

 いつもこうして放送後に珈琲を用意してくれている。
 彼女が担当するエンタメ番組は11時スタートなため、7時出勤なのだ。

 自席に腰を下ろし、フゥ~と一息ついた、その時。
隣りの大久保(おおくぼ)アナウンサーの席の椅子に座り、カラカラカラッとキャスターを転がして真横に移動して来た。

「先輩に報告しておくことがあって」
「……」
「私、デキ婚することになりました」
「へ?……今、何て」
「赤ちゃんができたんです。あっ、相手はまだ秘密にしてて貰いたいんですけど、田崎総務大臣の長男で、先輩もご存知ですよね?田崎 雅人さん。イケメン議員親子でも有名だから」
「……」
「お腹が目立つ前に身内だけで式を挙げることになったので、挙式には招待できないかもですけど。後でパーティーを開く予定なので、その時に是非来て下さいね」
「……」
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