俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
【最終戦】譲れないポールポジション

 2月中旬。
 大寒波が押し寄せている中、瑛弦は羽田空港に降り立った。

 キャリーケースを手にして、ロングコートの裾を翻しながらタクシー乗り場へと向かう。

「T大学本郷キャンパスの正門前にお願いします」

 この日が来るのをずっと待っていた瑛弦。

 本当なら12月上旬の時点で日本に来ているはずだった。
けれど、基と基の両親に『今行っても負担になるだけだから』と説得され、少し時期を見送ることにした。

 手術を受けるにあたって幾つもの検査が必要なのは分かる。
 チームドクターのカーター(42歳)に相談して、脳腫瘍のことを詳しく教わった。

 基が言っていたように、手術が成功しても、それまでと変わらない日常生活が送れる保証はないという。
『脳』という大事な器官に発病した病魔は、確実に彼女を蝕んでいた。



『東京の大学』『生物学者』『教授』『教育番組で講師』『笹森』
それらを繋ぎ合わせて調べ上げ、羽禾の父親が勤務する大学を割り出し、直接会って貰えるように連絡を入れていた。

 その日が今日だ。

 研究室に来るように言われ、講義が終わる時間に合わせて会うことになっている。

 聞きたい事は山のようにある。
 瑛弦は逸る気持ちで、膝の上に置いた手を握りしめた。
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