俺様レーサーは冷然たる彼女に愛を乞う
【第2戦】強制リタイア
「笹森、反省会始めるぞ」
「……はい」
一緒にベスモニを担当している重田アナが声をかけて来た。
けれど、正直気が動転して立ち上がることすら難しい。
(彼と付き合っていることを知ってて、彼を奪ったってこと?いや、彼が彼女に手を出したの?)
「あぁ、もう何なの……次から次へと。キャパオーバーでどうにかなりそう」
「おーいっ、笹森~」
「はーい、今行きまーすッ!」
羽禾は、今日放送で使った原稿を手にしてミーティングルームへと向かった。
**
ベスモニは、月曜日から金曜日の早朝5時から8時まで放送される生放送の情報番組。
衝撃的な事実を突き付けられても、木曜日という事実が変わるわけじゃない。
有休を使って気分転換したいところだが、視聴者はそんなこと知る由もない。
「今日は早めに帰って、しっかり休息取れよ」
「……はい。ご心配お掛けしてすみません」
重田アナに肩をポンと叩かれた。
10時半を回り、退社しようとデスクの上の荷物を纏めていると。
「笹森さん、ちょっといいかな」
「はい」
アナウンス部の専任部長である野口 彰浩(52歳)が声をかけて来た。
羽禾は野口の後を追い、小会議室へと。
野口はアナウンサー歴30年のベテランで、スキルを活かしてフリー転向するアナウンサーが多い中、若手育成のために心血を注いでいる人物だ。
「突然で申し訳ないんだが、15日の放送を最後にベスモニを降りて貰うことになったから」
「……はい?」